水の上。 |
23:50 |
今日は山の上の古刹で撮影会をした。
お雛様が、中庭の池に筏を組み、水の上を楽しんでいた。
そんな窮屈な衣装でいたのでは、寛げないじゃないか。
ジーンズがいい。ジーンズでいいよ。
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メロディ。 |
23:54 |
雨だれのようなキースジャレットのピアノを聴きながら、濡れた庭を、独りぼんやりと眺めていた。カップの底の珈琲も冷めた。
席を立つ頃になって、雨が止んでいることに気付いた。ああ、また虚ろな思いが戻ってきたようだ。
キースのピアノが替わった。
ピアノ: キース・ジャレット / Somewhere Over The Rainbow
https://www.youtube.com/watch?v=LFtwh3Fae-0
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呼び名。 |
23:56 |
軒下にニワトリの置物を飾っている焼き鳥屋の親父さんは、ボクを何故か「マスター」と呼んでいた。
近所の魚屋の娘さんは、ボクをなぜか「棟梁」と呼ぶ。
家の壁を塗ってくれたペンキ屋さんは、ボクを何故か「親方」と呼んだ。
自分の生活環境に合わせて呼ぶのだろうが、じつは、ボクが呼んで欲しいと思っているようには、まだ呼ばれたことがない。ボクはむかし、鉛筆で紙に、「しょうねんめいたんてい」と書いた名刺を自分で作り、大人たちに配ったら、大人たちは、笑いながら「そうかそうか」と言ったが,ボクは、そう呼ばれたことがない。
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ひなまつり。 |
23:58 |
近く撮影会をさせていただく古刹を訪ねたら、
ひなまつりをしていて、中庭の池では
おひなさまが舟遊びをしてらした。
この寺の椎の巨木の実は、
飢饉の村人の命を救ったという。今日の陽射しは暖かい。
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仕事しているテーブルの前に、画家だった恩師の描いた油絵が掛けてある。それを見ていて、久しぶりに恩師の墓に行ってみる気になった。
暗くなり始めた夕方の墓地は、少し寒かった。
墓地の横に、なぜか大きな石の群れが置いてある。
その石の群れが、何か語ってくれるかと思ったが、そんなことはない。今日も黙ったまま、冷たい風を受けている。
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カプチーノ。 |
23:56 |
閉店時間が過ぎたカフェで珈琲を飲み終えたら、ママがカプチーノを淹れてくれた。
隣の席では、マスターが、ボクが持ち込んだ昔の写真雑誌を熱心に捲っている。
ボクはカプチーノを飲みながら、昔の仕事場を思い出そうとしたが、何故か夢を見ているようで思い出せない。だがふっと、氷酢酸が匂ったような気がした。
流れているのは、ジミー・スコットじゃないか?
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古い鉄道客車を改造し、再利用しているカフェがあった。
珈琲を飲ませてもらおうとしたが、残念ながら、今日は休業らしい。
擦り切れた堅い椅子に掛け、車窓から見える風景を眺めてみたかった。
車窓から眺めれば、それだけで、未練はザックに押し込んだ旅人になれただろうに。
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地蔵坊と。 |
23:55 |
通りすがりに、ふと振り返ると、屈託の無さそうな地蔵坊がいて
きなこ飴をあげたら、嬉しそうだったので、
つい離れたくなくなって、
いつまでも、いつまでも、一緒にいた。
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石仏巡礼 |
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背負うもの。 |
23:56 |
道沿いの木立の下に、何やら石像のようなものが見えたので、近づいた。
光背を重そうに支え、前のめりになった地蔵さまが、半身を土に埋ずめておられた。
お仕事大変ですね、と呟いてはみたが、誰に言ったのか、自分に言ったような気がした。
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石仏巡礼 |
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金拾圓。 |
23:58 |
ひと気のない神社に立ち寄って社殿を見上げると、「金拾圓」と書いた奉納額が眼についた。
月待講で納めたのだろう。誇らしげな金拾圓の文字が、今なお講中の気持ちや願いを伝えているようだった。
よし、それじゃオイラは五十圓だぞ、とボクはポケットを探り、賽銭箱に小さなコインを投げ入れた。
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