NEXT HORIZON・Shu Land Annexフォトギャラリーブログ・オダギ秀の眼差しとモノローグ。

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天狗の山の夜明け。 02:03



昨年の今ごろは、12月の写真展の作品撮りで、夜明け前から、よく岩間の愛宕山という山に登った。
天狗が棲んだと伝えられる幽境を、自分なりの表現で捉えたかったからだ。
朝四時ごろの愛宕山はもちろん暗闇の中で、それほど大きな山ではないのだが、古木に囲まれた暗黒の中の寂寥感は想像以上のものがあり、寒さと恐怖に震えた。
やがて空から光の筋が射してくる。その瞬間の安堵感は、涙が出るほどであった。
闇に恐怖し光を喜ぶ自分を、あの瞬間ほど生きていると感じたことはない。


「仙境異聞」

   常陸国岩間愛宕山天狗伝説考        オダギ 秀

 自分たちが住む世界とは異なる世界への憧れは、多かれ少なかれ、誰しもが持っている感情かも知れない。まして、それが摩訶不思議な異界ともなれば、一層の興味が津々となる。「仙境異聞」は、まさにその知的好奇心と、野次馬的心情と、本能的畏敬とを表現した、江戸時代爛熟期の文書である。
 十五歳の寅吉という少年が、文政三年秋、突然江戸の町の知識階級の前に現れ、天狗とともに過ごした日々を語り始めた。神秘性を重視していた国学者平田篤胤は、その少年寅吉に会い、彼が天狗とともに見聞きしたという世界や天狗から学んだことを聞き書きし、「仙境異聞」としてまとめた。
 だが、この際、「仙境異聞」が、何を伝えようとしたかは重要ではない。ボクは、平田篤胤が、少年寅吉の語ることに心動かされ、異界の存在を信じたことに憧れた。ボクも、異界を見たいと思ったのだ。
 天狗の世界は、笠間の東、岩間の愛宕山にあった。愛宕山には、十三の天狗が住み、修行していたと伝えられている。愛宕山頂には、「仙境異聞」に書かれているように、今も十三天狗の小さな石の祠があり、天狗の行場と言われる岩場がある。
 ボクは、天狗の残滓を求めて、深夜、愛宕山に登った。夜の闇の方が、天狗が住む山に相応しい撮影ができると、単純に思ったからだ。愛宕山は、標高三百メートルほどの小高い山に過ぎないが、それでも古木生い茂る森林の中に立つと、暗黒に包まれる寂寥感は、予想以上のものがあった。微かな葉擦れにも、木の実が落ちる音にも、幽界にいるような恐怖が増した。
 だが、やがて空が明らみ鳥たちが目覚めると、自分が闇夜を恐れたことさえも愛おしくなり、この天狗や動植物の棲む世界こそが現実の世界であり、四季の移ろいを忘れ、おののきを知らず、微睡みよりもテクノロジーをモノの価値の尺度とする自分の住んでいる世界は、なんと実感のない、非現実的な異界であろうかと思えてきた。
 以来、ボクは、幾度となく愛宕山に登った。冷たい雨の日もあった。途方に暮れるような霧の朝もあった。だが、様々な表情を見せる仙境は、やがて、ボクにとっては、妙に懐かしい、心和む世界となった。
 現世を、乾ききった世界などと単純な括りをするつもりはないが、愛宕の山中に立つと、潮の満ち干にも似た空気感や、時の流れがうねるような季節感に、これこそが実体のある世界であると感じないわけにはいかなかったのだ。

  なぜ、闇を恐れないのですか
  なぜ、雨に笑わないのですか
  なぜ、霧に惑わないのですか
  なぜ、明ける空を見上げないのですか
  なぜ、見上げる自分が悲しくはないのですか

  なぜ、眼に見えぬものを信じられるのですか
  なぜ、触れられないものを信じられるのですか
  なぜ、鳥が啼くのに歌わないのですか
  なぜ、寒さを肌で感じないのですか
  なぜ、緑の臭いに咽せないのですか
  なぜ、言葉で語るのですか

  なぜ、いまそこに、命が輝いていることを知らないのですか
| 写真展「仙境異聞」から | comments(18) | trackbacks(0) | posted by オダギ 秀 - -
Comment








yoko さん、
行くといいですよ。
眼には見えませんが、逢いたいと思っていると、逢えるもんです。
posted by 秀 | 2016/05/28 2:37 AM |
岩間の愛宕山
行ってみたい。。
逢えるような気がする
posted by yoko | 2016/05/27 9:27 AM |
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すみれさん、
「黄昏のワルツ」聞いてくださったんですね。
ボクは、怒りに燃えたり、悲しみに泣いたり、寂しさに震えたり、絶望に打ちのめされたりした時に、よくこの曲を聴きます。
すると、穏やかな、優しい気持ちになれる。涙は止まりませんけどね。
大切な曲は、いくつもあるんですよ。でも、そのほとんどは、誰かと、あるいは何かのシーンと、思い出と結びついている。その曲の周辺にまとわりついているものが多くて、耐えられなくなる。
でも、この曲は、ボクには、何のしがらみもないものですから、素直に聴いていられるのかも知れません。加古さんに感謝です。
黄昏、って、あまりに意味が深すぎて、ちょっと辛いですけれど。
posted by 秀 | 2009/10/01 3:33 PM |
秀さん

今日で9月も終わりますね。
秀さんのこのブログと出逢って、8ヶ月。
ある2ヶ月を外したら、ほぼ毎日お邪魔しています。

秀さん、
ご紹介頂いたYouTube…拝聴して参りました。
演奏に、熱く語る加古さんの思いが乗っかって聴こえてきました。

あの一曲を作成する段階から、
世に出た後のズシリとした『覚悟』を持って、
作成に取り掛かっていたんですね。
それを責任と呼ぶのでしょうか?

作者のコンセプトと受け取る側の感想が一致した時の
作者の喜びも知りました。

作品は世に送り出された瞬間から、
メッセージ性や作者の生き様が見え隠れするのでしょうか?

作品が、作者独自のものから独り歩きを始めて、
人様からも育てられ、深く大きくなっていくのも
きっと喜びになるのでしょうね。

ヒトツの作品の裏側には、
見えない経過やタイミングや思いが存在しているのですね。

秀さんが
加古さんの音楽のように写真を撮りたい・・・という大切な思い。

少〜しだけ判った気でいます。

私は、秀さんをインターネットを通してのみしか知り得ませんが、
それでも、秀さんの写真と言葉から、
その都度、様々な気持ちと向き合い、
気持ちを立て直したり、喜びを感じたりしています。

それはきっと、一枚の写真の裏側にある、
秀さんの思いや苦悩や喜びや経験に、
間接的にでも触れることができるからなのでしょうか?
それを共感と呼ぶのかな・・・

私はこの『仙境異聞』を知ってから、
自分の中でカチっと何かのスウィッチが入ってしまいました。
それが何であるかはヒミツだけど、
これからも、このブログを毎朝楽しみにしています。
秀さんをそっと応援しています。

今日もまた、
秀さんに感謝いたします。
posted by すみれ | 2009/09/30 10:03 AM |
すみれさん、
「黄昏のワルツ」と言う、加古隆さんの曲をご存知でしようか。
むかし、NHKの「にんげんドキュメント」と言う番組のテーマだった曲で、ボクは大好きです。どれほど元気づけられ、勇気をもらったか知りません。いつも、今日も、この曲に励まされています。
こちらで、加古さんの言葉と一緒に聞けます。ボクは、加古さんの音楽に対する態度にとても共感していて、加古さんの音楽のように写真を撮りたいといつも思っていますが、実現しないで後悔ばかりしています。このYoutubeは、バイオリンが好きではないのですが、加古さんの言葉が聞けるので、ここを紹介します。演奏は、もっといい、気に入るサイトを探してください。
http://www.youtube.com/watch?v=aZJzn1FiHDU&NR=1
posted by 秀 | 2009/09/30 3:07 AM |
秀さん

ジンとしますょ。

私も五感をフルに使って、心で感じたい。
生き物としての人間であると実感してみたい・・・

お忙しい秀さんに、
こんな事を申し上げるのは酷だと承知の上で言うならば・・・
飽きることなく、懲りることなく、
秀さんご自身の心でシャッターを押し続けて欲しい。

命が輝く瞬間がある事を、教えてくれた秀さん・・・

秀さんの納得のいく『仙境異聞』が完成したら、
花束を抱えて、お祝いに駆けつけたい・・・

私こそ、
秀さんに感謝しているのですょ。
ありがとうございます、秀さん。
posted by すみれ | 2009/09/29 9:29 PM |
すみれさん、
あなたのおかげで、仙境異聞を撮影していた頃の感覚が、甦ってきました。
その撮影をしていた期間は、本当に、暗闇を怖れたり、風の音におののいたり、雨のしずくに喜びを感じたりしていて、そんな思いは、やはり動物的であり、生き物としての人間が生きている証であると、実感した期間でした。
その感覚が、また、ボクに戻ってきた気がします。
ただ、この時発表したものには、ボクは可成り不満があるものですから、何とかその続きを撮影して、仙境異聞を完成させたいものだと思っています。
すみれさんのおかげで、いま、その意欲が、首をもたげ始めています。
もっと撮りたいなあ。すみれさん、ありがとう。
posted by 秀 | 2009/09/29 7:50 PM |
あぁ・・・
秀さん・・・

この、光の筋が射してきた時は、
何とも言えずホッとしたでしょう・・・?

暗黒の暗闇が、
いずれ明けるのだと判っていても、
この暗黒に一人包まれている空間では、
風の音や葉っぱが揺れる音さえも、
恐怖に感じるように思います。

こんな思いをしてまでも、
何度も山に踏み入れる勇気はどこから・・・?

雲間から射すこの光の筋、
神々しく、
強さと優しさを感じ、
有り難さでいっぱいになります。

怖くて愛おしい世界・・・そう言えるのは、
秀さんが経験したからこそ言える言葉ですよね。

本当に、素敵です。





posted by すみれ | 2009/09/28 9:40 AM |
Komorebiさん、五感で感じて信じるって、すごいことですよね。動物らしくて、憧れるなあ。
最近の人間は、ちっとも動物的じゃないから、ね。動物のくせに。
猛獣たちのように、何キロも先の臭いを嗅いでエサを求める生き方なんて、すごくホントらしい気がします。
posted by 秀 | 2005/11/18 5:19 AM |
自分の五感で感じることこそが信じられる。
そうですよね?そうですよ。そうなんです。
この写真は、写真展で目に焼きついた一枚でした。
その時と今とまた感じ方が違うのですが、見ているうちに、信じられるものは一つという気持ちが強く強く迫ってきました。
流されるのもいいじゃない…を少し修正しようかなあ…。
posted by Komorebi | 2005/11/17 9:58 PM |
soukichiさん、「仙境異聞」の撮影を進めている時期は、自分の五感で感じることこそが信じられると、強く思っていました。いまは、そう信じているというよりも、そうありたいという気持ちの方が強いんですが。
考えてみれば、ITとかって、目に見えぬもの触れられぬものを信じて蠢いている世界というのは、生身の人間にとっては、何と恐ろしい異界かと思うんです。
むかし見た「レ・ミゼラブル」の映画の中で、ぼろを纏った浮浪者が言った台詞が好きでした。「ヘッ、金持ちは、暑さ寒さを温度計で知りやがる。オレたちゃ、膚で知るのよォ」
ところで、soukichiさんの夢に現れた井戸と河童を、ボクも夢に見てみたい気がします(笑)。それ、絶対あったんですよ。

悠さん、こんばんは。
それは、ボクも同じです。体重が増えて困る最近はとくに(笑)。
ボクの場合は、安易に流されることを、安易に許している自分が許せない。

posted by 秀 | 2005/11/15 2:03 AM |
生きていると実感できる瞬間ってなかなか経験できませんね。
特に安易に流されつつある私にとっては・・・。
posted by 悠 | 2005/11/14 11:51 PM |
タイトルを見ただけで夜に入山したであろうことが予測され、瞬時にして夜の山にいることの恐怖を思ったら、変な言い方だけど、オダギさんはやっぱり男なんだなあと思いました。私には独りで夜の山に入るなんてことは到底できないから。そう思って全文を読んだら、私もオダギさんが共感したように平田篤胤に共感したし、またこの異界をこそ本当の世界と思い、いつしか懐かしい心和む世界になったというのを羨ましく感じました。個人的なことを書くと、古い借家に住んでいた頃、繰り返し何度となく庭の井戸(実際には無い)から河童が出てくる夢を見て、そのあまりのリアルさに、きっとこの家の庭にはかつて井戸があったに違いないと確信したことを思い出しました。人間のそういう感覚って、かなり確かなんじゃないかと思えてなりません。
posted by soukichi | 2005/11/14 9:07 AM |
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